深呼吸しても、声が出やすくならない理由|緊張と身体の使い方から考える発声
「人前で話すと、声が出しにくくなる」
「緊張すると声が震えてしまう」
「喉が詰まるような感じがして、うまく声が出せない」
そんなとき、まず「深呼吸をして落ち着こう」とする方は多いのではないでしょうか。
ゆっくり呼吸することは、緊張したときに落ち着くきっかけになることがあります。
ところが、
「深呼吸しているのに、声が出しやすくならない」
ということもあります。
なぜでしょうか?
実は、声が出しにくい原因を、単純に「呼吸が足りないから」と考えることはできません。
この記事では、深呼吸と声の関係を整理しながら、緊張したときの身体の使い方という視点から、声の出しにくさについて考えてみます。
「声を出す前に、まず深呼吸」は本当に効果的?
人前で話すときや、歌うときに緊張すると、
「一度深呼吸してから話そう」
「もっと息を吸ってから声を出そう」
と考えることがあります。
確かに、呼吸は声を出すために重要な要素です。
ただし、「たくさん息を吸えば、声が出しやすくなる」と単純に考えることはできません。
声は呼吸だけで作られているわけではありません
声を出すときには、呼吸によって生じる空気の流れだけでなく、声帯の働きや、声道での共鳴、口や舌などによる構音も関係しています。
つまり、声は一つの器官だけで作られているわけではなく、呼吸・発声・共鳴・構音など、複数の仕組みが協調して働くことで生まれています。
そのため、
「声が出にくい」
↓
「息が足りない」
↓
「もっと深呼吸しよう」
と、すべてを呼吸の問題として考えるのは少し単純化しすぎています。
もっと深く呼吸しよう」と頑張ることで、身体が固くなることも
緊張して声が出にくいとき、
「ちゃんと息を吸わなきゃ」
「お腹から息を入れなきゃ」
「大きく深呼吸しよう」
と、一生懸命呼吸をコントロールしようとすることがあります。
すると、人によっては、
- 胸を大きく広げようとする
- 肩を持ち上げる
- 首を固める
- 胸やお腹を必要以上に動かそうとする
- 「ちゃんと声を出そう」とさらに頑張る
といったことが起こる場合があります。
もちろん、これはすべての人に当てはまるわけではありません。
深呼吸が悪いわけではありません
ここでお伝えしたいのは、
「深呼吸は良くない」ということではありません。
呼吸への介入によって、呼吸機能や声に改善がみられるケースもあります。
一方で、呼吸エクササイズと声の改善について調べたシステマティックレビューでは、23件の研究が検討され、呼吸機能の改善が声の改善に必ずしもつながるわけではなく、効果は対象者の呼吸や声のニーズによって異なるとされています。つまり、呼吸エクササイズをすべての声の悩みに一律に適用できるだけの根拠はないということです。
ですから、
「声が出にくいなら、とにかくもっと深く呼吸する」
という一つの方法だけに頼る必要はありません。
「ちゃんと声を出そう」とすることが、緊張を強めることも
緊張したときには、
「大きな声で話さなきゃ」
「聞こえるようにしなきゃ」
「声を震わせないようにしなきゃ」
と考えることがあります。
すると、声そのものよりも、「うまく声を出すために身体をコントロールしよう」とすることに意識が向いていくことがあります。
例えば、
肩に力が入る。
首を固める。
顎に力が入る。
呼吸を自分で操作しようとする。
そして、
「もっとちゃんと声を出さなきゃ」
と、さらに頑張る。
こうしたことが重なると、最初は声を出しやすくしようとしていたのに、結果として身体を固める方向へ進んでしまうことがあります。
もちろん、これもすべての人に同じように起こるわけではありません。
大切なのは、
「声を出すために、自分は何をしているのだろう?」
と、一度立ち止まってみることです。
大切なのは「もっと呼吸する」ことより、邪魔しているものに気づくこと
ここからは、アレクサンダーテクニークにもつながる考え方です。
声を出しにくいとき、
「もっと呼吸しよう」
「もっとリラックスしよう」
「もっと大きな声を出そう」
と、新しいことを付け加えていくのではなく、
すでに自分がしていることに目を向けてみる。
という方法があります。
まずは身体の使い方に気づいてみる
例えば、声を出す直前に、
「首が固くなっていないかな?」
「肩を上げていないかな?」
「息を吸おうとして身体を大きく動かそうとしていないかな?」
「声を出す前から身体を固めていないかな?」
と観察してみます。
すぐに直す必要はありません。
まず、
「自分はこういうことをしていたんだ」
と気づいてみる。
それだけでも、今まで無意識だった身体の使い方を意識できるようになります。
「リラックスしなきゃ」と頑張らなくてもいい
ここも意外と大切です。
「緊張しているから、リラックスしなきゃ」
と思うと、今度は「リラックスする」ということを頑張り始めてしまうことがあります。
すると、
緊張している
↓
リラックスしなきゃ
↓
身体を緩めようとする
↓
うまく緩められない
↓
さらに頑張る
ということにもなりかねません。
だから、
緊張をなくそうとするのではなく、緊張している自分に気づいてみる。
そんなところから始めてもいいのです。
声は「喉だけ」で出しているわけではありません
声の悩みがあると、どうしても喉に意識が向きます。
「喉を開かなきゃ」
「喉に力を入れないようにしなきゃ」
「喉をリラックスさせなきゃ」
と考えてしまうかもしれません。
しかし、声の生成には呼吸、声帯、声道、共鳴など複数の仕組みが関係しています。声の研究では、呼吸・喉頭・声道などの相互作用が重要なテーマとして扱われています。
だからこそ、
喉だけを何とかしようとするのではなく、身体全体の使い方を見る
という視点があります。
立っているとき。
座っているとき。
歩いているとき。
話しているとき。
歌っているとき。
それぞれの場面で、自分が身体をどのように使っているのか。
声の悩みを、声だけの問題として切り離さずに見ていくことができます。
アレクサンダーテクニークでは、声をどう考えるのか
アレクサンダーテクニークのレッスンでは、
「もっと深く呼吸しましょう」
「もっと力を抜きましょう」
と、決まった方法を一方的に教えることを目的にはしません。
その人が普段どのように身体を使っているのかを観察しながら、必要以上に身体を固めている習慣に気づいていくことを大切にします。
「声を治す」のではなく、身体の使い方を見直す
例えば、
「声を出そうとすると首が固まる」
「人前に立つと肩が上がる」
「歌おうとすると喉に力が入る」
といったことがあるなら、
「首をリラックスさせよう」
「肩を下げよう」
と直接コントロールするだけではなく、
そもそも、なぜ声を出そうとしたときにそうした身体の使い方をしているのか
を探っていきます。
そして、必要以上に頑張っていることに気づき、それを少しやめてみる。
その結果として、呼吸や声がより自由に働ける余地をつくっていきます。
なお、アレクサンダーテクニークについては健康関連領域で研究されていますが、エビデンスの強さは領域によって異なります。システマティックレビューでは、慢性腰痛などについては比較的強いエビデンスがある一方、呼吸機能や吃音などについては予備的な結果にとどまり、十分な証拠がないとされています。
そのため、ここでは**「アレクサンダーテクニークで声の悩みが治る」とは言いません。**
声を出すときの身体の使い方を見直すための、一つの方法として考えていただければと思います。
深呼吸しても声が出にくいなら、もっと頑張る前に
もしあなたが、
「声が出にくいから、もっと息を吸おう」
「もっと腹式呼吸をしなきゃ」
「もっとリラックスしなきゃ」
と頑張っているのに、なかなか変化を感じられないのであれば、
「自分は今、何を頑張っているんだろう?」
と、一度立ち止まってみてもいいかもしれません。
声を出すために必要なのは、いつも「もっと何かをすること」とは限りません。
もしかすると、
すでに十分やっていることを、少しやめてみる。
そこから何かが変わることもあります。
まとめ
深呼吸は、緊張したときに役立つことがあります。
一方で、声が出しにくいからといって、必ずしも「もっと息を吸えばいい」とは限りません。
声は呼吸だけでなく、声帯や声道、共鳴など、さまざまな仕組みが協調して生み出されています。
だからこそ、
「もっと呼吸する」
だけではなく、
「自分は声を出すとき、身体をどのように使っているのか?」
という視点を持ってみることもできます。
緊張をなくそうとするのではなく、まず自分の身体の使い方に気づいてみる。
それが、声との付き合い方を見直す一つのきっかけになるかもしれません。
声や緊張について、身体の使い方から見直してみませんか?
アレクサンダーテクニークのレッスンでは、声だけを切り離して考えるのではなく、立つ・座る・歩く・話すなど、日常の身体の使い方を一緒に見ていきます。
「緊張すると声が出にくい」
「人前で話すと声が震える」
「喉に力が入ってしまう」
「歌うと身体が固くなる」
そんな悩みがある方は、身体の使い方という別の角度から、自分の声を見直してみませんか?
免責事項
※本記事は、声・呼吸・身体の使い方についての一般的な情報を提供することを目的としたものであり、病気や声の障害の診断・治療を目的としたものではありません。声のかすれ、痛み、発声困難などが続く場合や、急激な変化がある場合には、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。
また、アレクサンダーテクニークについて本記事で述べている内容は、その考え方やレッスンで扱う内容を説明したものであり、特定の症状の改善を保証するものではありません。
参考文献
- Desjardins M, Bonilha HS. The Impact of Respiratory Exercises on Voice Outcomes: A Systematic Review of the Literature. Journal of Voice. 2020;34(4):648.e1–648.e39.
- Herbst C. A Review of Singing Voice Subsystem Interactions—Toward an Extended Physiological Model of “Support”. Journal of Voice. 2017;31(2):249.e13–249.e19.
- Woodman JP, Moore NR. Evidence for the effectiveness of Alexander Technique lessons in medical and health-related conditions: a systematic review. International Journal of Clinical Practice. 2012;66(1):98–112
