緊張をなくそうとしていませんか?|「緊張しないようにする」ほど身体が固くなる理由
人前で話すとき、歌うとき、発表するとき。
「緊張しないようにしよう」
そう思えば思うほど、身体が固くなってしまった経験はありませんか?
「リラックスしなきゃ」
「肩の力を抜かなきゃ」
「喉を開かなきゃ」
「緊張しているのがバレないようにしなきゃ」
そんなふうに頑張っているうちに、かえって呼吸が浅くなったり、声が出しにくくなったりすることがあります。
これは、「リラックスしようとすることが悪い」という意味ではありません。
大切なのは、緊張をなくそうとすること自体が、新たな身体のコントロールや頑張りになっていないかという視点です。
今回は、緊張を「なくす」のではなく、緊張している自分に気づきながら、必要以上に身体を固めないという考え方について、声との関係から考えてみます。
第1章 「緊張しないようにする」と、なぜ疲れてしまうの?
緊張すると、多くの人は「この状態を何とかしなければ」と考えます。
でも、その瞬間から、もう一つの仕事が始まっているのかもしれません。
1.1 「緊張してはいけない」という新しい課題
例えば人前で話す直前に、
「緊張しないぞ」
と思ったとします。
すると、自分が緊張していないかどうかを常に確認することになります。
「まだ緊張している」
「肩に力が入っている」
「声が震えそう」
「もっとリラックスしなきゃ」
このように、自分の状態を監視することが増えていきます。
本来なら「何を話そうか」に使いたかった注意が、「自分が緊張していないか」の確認に向かってしまうこともあります。
1.2 「緊張をなくす」ことと「緊張に気づく」ことは違う
ここで大切なのが、
緊張をなくそうとすることと、緊張に気づくことは違う
ということです。
「緊張してはいけない」と考えると、緊張そのものを敵にしてしまいます。
一方で、
「今、少し緊張しているな」
と気づくだけなら、緊張を消そうとはしていません。
この違いは小さく見えて、身体との関わり方としては大きな違いがあります。
第2章 「力を抜こう」とすることも、頑張りになる
緊張しているときには、「力を抜こう」と考えるのが自然です。
でも、ここにも少し落とし穴があります。
2.1 肩の力を抜こうとして、肩を操作していませんか?
「肩の力を抜いてください」と言われると、
肩を下げる。
首を伸ばす。
胸を開く。
顎をゆるめる。
そんなことをしようとするかもしれません。
もちろん、こうした身体への意識が役立つ場合もあります。
ただ、「正しい状態を作ろう」と頑張りすぎると、それ自体が新しい緊張になることがあります。
例えば、
肩に力が入っている
↓
肩を下げなきゃ
↓
肩を下げることに集中する
↓
今度は肩を下げたままにしようとする
というように、身体をコントロールする仕事が増えていくことがあります。
2.2 「リラックスした身体」を作ろうとしなくてもいい
リラックスという言葉を聞くと、
「力が入っていない状態」
を想像するかもしれません。
でも、人間は話したり、歌ったり、歩いたりするとき、まったく力を使わずに動いているわけではありません。
必要な筋肉は働きます。
声を出すときにも、呼吸や発声に関わるさまざまな器官が協調して働きます。
大切なのは、力をゼロにすることではなく、必要以上に頑張っていないかに気づくことです。
第3章 「緊張をなくしたい」という気持ちは、声にも影響する?
緊張と声の関係を考えるとき、「声を出すために身体がどう使われているか」は無視できません。
3.1 声の問題には、さまざまな要因が関係する
声が出しにくい、声がかすれる、声が疲れやすいといった問題には、さまざまな要因があります。
例えば、声の使い方、発声習慣、身体的な要因、心理的な要因などが複雑に関係する場合があります。
筋緊張性発声障害(Muscle Tension Dysphonia)についても、喉頭周辺の過剰な筋緊張だけでなく、心理的・行動的な要因や、別の疾患への代償など、複数の要因が関係すると考えられています。
つまり、
「声が出にくいから、喉の力を抜けばいい」
と単純に考えられるものではありません。
3.2 「声を出しやすくする」ために、さらに頑張っていないか
声が出にくいと、
「もっと息を出そう」
「もっと喉を開こう」
「もっとリラックスしよう」
と、さらに努力を重ねることがあります。
その努力がうまく働く場合もあります。
一方で、もしその努力によって身体全体がさらに固くなっているなら、一度立ち止まってみてもいいかもしれません。
「声を出しやすくするために、今、私は何をしているんだろう?」
という問いです。
第4章 「なくそう」とすると、かえって意識してしまうことがある
「緊張をなくしたい」という考え方には、もう一つ興味深い側面があります。
4.1 「考えないようにする」ことが、かえって意識を向けさせる
心理学では、ある考えを意識的に抑えようとすると、その考えが後から再び浮かびやすくなる「リバウンド効果」が研究されています。
2020年のメタ分析では、思考を抑制した後に、抑えようとした思考が再び生じやすくなる現象が確認されています。ただし、抑制の効果には条件による違いもあり、すべての状況で同じように起こるわけではありません。
これは「緊張をなくそうとすると必ず緊張が強くなる」という証明ではありません。
ただ、
「緊張してはいけない」と自分の状態を監視し続けることが、必ずしも楽な方法とは限らない
ということを考える材料にはなります。
4.2 緊張を敵にすると、身体の状態ばかり気になってしまう
例えば、
「声が震えていないかな?」
「喉に力が入っていないかな?」
「緊張しているのが相手に伝わっていないかな?」
と考え続ける。
すると、話している内容よりも、自分の身体の状態をチェックすることに意識が向いてしまうことがあります。
だから、
「緊張してはいけない」ではなく、「緊張していることに気づいている」
という状態を作ってみる。
それだけでも、身体との関係が少し変わるかもしれません。
第5章 「緊張していてもいい」と考えると、何が変わる?
ここで誤解してほしくないのは、
「緊張していてもいい」
というのは、
「何もしなくていい」
という意味ではないということです。
5.1 緊張を消すことを目標にしない
例えば、人前で話す前に、
「緊張しているな」
と気づく。
肩が少し固くなっているかもしれません。
呼吸がいつもより速いかもしれません。
身体が少し前のめりになっているかもしれません。
そこで、
「この緊張をなくさなきゃ」
とすぐに修正しなくてもいい。
まずは、
「今、自分はこうなっている」
と知る。
それだけでも、自分の身体を観察する時間になります。
5.2 「どうすればいい?」の前に「何をしている?」と問いかける
身体の悩みがあると、すぐに解決方法を探したくなります。
「どうすれば肩の力が抜ける?」
「どうすれば喉が開く?」
「どうすれば緊張しない?」
でも、その前に、
「私は今、何をしている?」
と問いかけてみる。
これはアレクサンダーテクニークのレッスンでも大切にされる視点の一つです。
新しい正解を身体に追加する前に、今まで無意識にしていたことに気づいていく。
そんなアプローチです。
第6章 アレクサンダーテクニークでは、緊張をどう考える?
アレクサンダーテクニークでは、「正しい姿勢を作る」「力を抜く」といった単純な操作だけを目標にするわけではありません。
自分がどのように身体を使い、どのような反応をしているのかに気づいていきます。
6.1 「緊張をなくす」より「必要以上に固めていないか」を見る
緊張は、人間にとって自然な反応の一つです。
大切な場面で身体が反応すること自体を、悪いものとして扱う必要はありません。
むしろ、
「緊張している」
ということと、
「必要以上に身体を固めている」
ということを分けて考えてみる。
この視点があると、
「緊張しないようにする」
という目標から少し自由になれます。
6.2 声を変える前に、声を出そうとしている自分を見る
声の悩みがあると、「もっといい声を出す方法」を探したくなります。
発声練習をする。
呼吸法を試す。
喉を開く。
姿勢を直す。
それぞれに役立つ場面があります。
ただ、それらを行うときにも、
「今、私は声を出すために身体をどう使っているだろう?」
と見てみることができます。
声を変えることだけを目標にするのではなく、声を出そうとしている自分自身を観察する。
それが、身体の使い方から声を考える一つの入り口になります。
第7章 緊張をなくすより、緊張していても声を出せる身体へ
人前で話すときに、まったく緊張しない人になる必要はないのかもしれません。
大切な場面なら、多少緊張するのは自然なことです。
問題は、
「緊張している=うまくできない」
と決めつけてしまうことです。
7.1 緊張している自分を、そのまま観察してみる
次に人前で話すとき、もし緊張したら、
「緊張しないようにしよう」
ではなく、
「今、緊張しているな」
と気づいてみてください。
そして、
「肩はどうなっている?」
「首はどうなっている?」
「呼吸はどうなっている?」
「声を出す前に、何を頑張っている?」
と、少しだけ自分の身体を観察してみます。
何かを直す必要はありません。
まず知ることから始めます。
7.2 「緊張していても大丈夫」という余白をつくる
緊張をなくそうとすると、
「緊張してはいけない」
というルールが増えます。
一方で、
「緊張していても、話していい」
と思えれば、少し余白が生まれます。
もちろん、それだけで声の悩みが解決するとは限りません。
声の問題にはさまざまな原因があり、必要に応じて医療機関や音声の専門家による評価が大切です。
そのうえで、
「緊張をなくす」以外の方法もある
と知っておく。
それだけでも、声との付き合い方が変わるきっかけになるかもしれません。
第8章 まとめ
「緊張をなくそう」とすると、つい身体をコントロールすることに意識が向きます。
「肩の力を抜こう」
「喉をリラックスさせよう」
「深く呼吸しよう」
「緊張してはいけない」
そうやって頑張るうちに、今度は「リラックスすること」を頑張ってしまうことがあります。
だからこそ、
緊張をなくすことではなく、緊張している自分に気づいてみる。
そして、
「私は今、声を出すために何をしているんだろう?」
と見てみる。
これは、緊張を敵にするのではなく、自分の身体の使い方を知るための一つの方法です。
声を出すことに悩んでいるとき、必要なのは「もっと頑張ること」ではない場合もあります。
もしかすると、すでに頑張っていることに気づき、少し違う選択肢を持つことから始められるかもしれません。
緊張による声の悩みを、身体の使い方から見直してみませんか?
アレクサンダーテクニークのレッスンでは、声だけを変えようとするのではなく、立つ・座る・歩く・話すといった日常の身体の使い方を一緒に見ていきます。
「緊張すると声が出にくい」
「人前に立つと身体が固まる」
「声を出そうとすると喉に力が入る」
「リラックスしようとして、かえって頑張ってしまう」
そんな方は、身体の使い方という別の角度から、自分の声との関係を見直してみませんか?
免責事項
※本記事は、緊張・声・身体の使い方についての一般的な情報を提供することを目的としたものであり、病気や声の障害の診断・治療を目的としたものではありません。声のかすれ、痛み、発声困難などが続く場合や、急激な変化がある場合には、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。
また、本記事で紹介しているアレクサンダーテクニークの考え方は、身体の使い方を見直すための一つの方法を紹介するものであり、特定の症状の改善を保証するものではありません。
参考文献
- Wang DA, Hagger MS, Chatzisarantis NLD. Ironic Effects of Thought Suppression: A Meta-Analysis. Perspectives on Psychological Science. 2020;15(3):778-793.
- Gross JJ, et al. Emotion suppression and acute physiological responses to stress in healthy populations: a quantitative review of experimental and correlational investigations. Health Psychology Review. 2023.
- Desjardins M, Apfelbach C, Rubino M, Verdolini Abbott K. Integrative Review and Framework of Suggested Mechanisms in Primary Muscle Tension Dysphonia. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2022;65(5):1867-1893.
- Van Houtte E, Van Lierde K, Claeys S. Pathophysiology and treatment of muscle tension dysphonia: a review of the current knowledge. Journal of Voice. 2011;25(2):202-207.
