声を出すとき、身体をどう使っていますか?|発声と身体の使い方を見直す

「もっと大きな声を出そう」とすると、身体に力が入る。

「しっかり話そう」とすると、肩が上がる。

「きれいな声を出そう」とすると、喉や顎が固まる。

そんな経験はありませんか?

声の悩みがあると、「発声の方法」に意識が向きやすくなります。

「腹式呼吸をしよう」

「喉を開こう」

「姿勢を良くしよう」

「お腹から声を出そう」

こうした方法が役立つこともあります。

一方で、声を出すために何かを「正しくやろう」と頑張るほど、身体全体が固くなってしまうこともあります。

声は、声帯だけで作られているわけではありません。呼吸、喉頭、声道、筋肉の働きなどが複雑に関係しながら生み出されています。

だからこそ、声を変えようとする前に、

「私は声を出すとき、身体をどのように使っているんだろう?」

と見てみることができます。

今回は、発声そのものだけではなく、声を出している「自分の身体の使い方」に目を向けてみましょう。

目次
  1. 第1章 声を出すとき、身体は何をしている?
  2. 第2章 「大きな声を出そう」とすると、身体に何が起こる?
  3. 第3章 「腹式呼吸をしなきゃ」と頑張っていませんか?
  4. 第4章 「良い姿勢」を作ることが、良い発声とは限らない
  5. 第5章 首・肩・顎に力を入れていませんか?
  6. 第6章 声を変える前に、自分の「やり方」に気づく
  7. 第7章 アレクサンダーテクニークから考える「発声と身体の使い方」
  8. 第8章 声を出すときに、まず観察してみたいこと
  9. 第9章 まとめ
  10. 免責事項
  11. 参考文献

第1章 声を出すとき、身体は何をしている?

声は「喉から出てくるもの」と考えがちですが、実際の発声には身体のさまざまな働きが関わっています。

1.1 声は声帯だけで作られているわけではない

声を出すためには、まず呼吸によって空気が動き、その空気の流れを利用して声帯が振動し、さらに口や舌などを含む声道で音が調整されます。

つまり、

呼吸 → 声帯の振動 → 声道での調整

という一連の働きが協調しているのです。

声の生理学・音響学をまとめたレビューでも、発声には声帯の振動だけでなく、呼吸、喉頭の筋活動、声道など複数の要素が関わることが示されています。

そのため、「声だけを変えよう」とするよりも、声を出している身体全体に目を向けることには意味があります。

1.2 声を出す前から、身体は準備をしている

興味深いのは、声そのものを出している瞬間だけではありません。

例えば人前で話すとき、

「そろそろ話さなきゃ」

と思った瞬間に、肩が上がる。

息を止める。

顎を固める。

身体を動かさないようにする。

そんな準備が始まっていることがあります。

つまり、声の問題を考えるときには、

「声を出した瞬間」だけでなく、「声を出す直前に何をしているか」

を見ることもできます。

第2章 「大きな声を出そう」とすると、身体に何が起こる?

声が小さいことを悩んでいる人ほど、「もっと力を使わなければ」と考えることがあります。

2.1 声の大きさと、身体に入れる力は同じではない

「大きな声=強い力」

と考えると、身体全体に力を入れてしまうかもしれません。

胸を張る。

お腹を固める。

喉を押し出す。

肩を固定する。

しかし、発声は単純に「力を増やせば声が大きくなる」という仕組みではありません。

声の大きさには、声門下圧や声帯の振動、声道など複数の要素が関係しています。

だからこそ、

「もっと力を入れなきゃ」

と思ったときには、一度立ち止まってみる価値があります。

2.2 「頑張って声を出す」と、別のところまで頑張っていない?

例えば、遠くにいる人に声を届けようとして、

「大きな声を出そう!」

と思った瞬間に、肩や首まで固くなる。

これは声を出すこととは直接関係のない部分まで、一緒に頑張っている状態かもしれません。

もちろん、声を大きくするために身体の活動が増えること自体は自然です。

問題なのは、

必要な働きまで減らすことではなく、必要以上に身体を固定していないか

ということです。

第3章 「腹式呼吸をしなきゃ」と頑張っていませんか?

発声について調べると、「腹式呼吸」という言葉をよく目にします。

呼吸は声と深く関係していますが、ここでも「正しい呼吸を作ること」に意識が偏りすぎると、身体をコントロールする仕事が増えてしまうことがあります。

3.1 お腹を動かそうとして、身体を固めていない?

「お腹を膨らませて息を吸おう」

と意識すると、お腹を大きく動かそうとする。

「息を支えよう」

とすると、お腹を固める。

「しっかり息を吐こう」

とすると、さらに力を入れる。

このように、呼吸そのものよりも「呼吸を正しく行うこと」に頑張りが向いてしまうことがあります。

声の呼吸は、単純に「どれだけ深く吸うか」だけで決まるものではありません。呼吸・発声・共鳴などのシステムは相互に影響しながら働いています。

3.2 「もっと吸う」より、まず呼吸を観察する

声が出にくいとき、

「もっと息を吸わなきゃ」

と考える前に、

「今、私は息を止めていないかな?」

「吸う前に身体を固めていないかな?」

「吐くときに頑張りすぎていないかな?」

と観察してみる。

これだけでも、自分の呼吸の使い方を知るきっかけになります。

第4章 「良い姿勢」を作ることが、良い発声とは限らない

声のために姿勢を整えることは大切なのでしょうか?

実際、姿勢と声の関係についてはさまざまな研究があります。

4.1 姿勢と声には関係がある

姿勢と声・発声障害の関係を調べた系統的レビューでは、姿勢と声の間には一定の関連が検討されています。

一方で、姿勢と発声障害との関係については研究結果に矛盾もあり、「正しい姿勢なら必ず声が良くなる」と単純には言えないことも示されています。

つまり、

「背筋を伸ばせばいい」

「胸を張ればいい」

という一つの答えだけではありません。

4.2 姿勢を「形」ではなく「使い方」として見る

例えば、

「背筋を伸ばした状態を維持しよう」

とすると、背中や首を固定するかもしれません。

でも、

「今、私は身体をどう使っている?」

と考えるなら、身体を固定する必要はありません。

立っている。

話している。

呼吸している。

相手を見る。

少し動く。

そうした活動の中で、身体がどう働いているかを見ることができます。

良い姿勢を作ることより、動ける身体でいること。

この視点も、声を考えるうえで大切です。

第5章 首・肩・顎に力を入れていませんか?

声を出そうとすると、首や肩、顎などに力が入る人もいます。

5.1 声を出すとき、首を固定していない?

人前で話すとき、

「ちゃんと話さなきゃ」

と思う。

すると、首を動かさないようにする。

肩を下げたままにする。

身体をまっすぐに保つ。

こうした「固定」が起こることがあります。

筋緊張性発声障害では、過剰な喉頭周辺の筋緊張が声の問題に関係することがありますが、その背景には心理的要因、発声の使い方、呼吸、姿勢など、複数の要素が関係する可能性があります。

だからこそ、「首の力を抜けばいい」と単純化するのではなく、

「声を出そうとしたとき、私は首をどう使っている?」

と観察してみるのです。

5.2 顎を「正しい位置」に固定しなくてもいい

顎についても同じです。

「口を大きく開けよう」

「滑舌を良くしよう」

「喉を開こう」

と頑張ることで、顎や舌を必要以上に操作することがあります。

ここでも、

「正しい位置に持っていく」

より、

「今、顎や舌をどう使っている?」

と気づく。

まずはそこから始めてみます。

第6章 声を変える前に、自分の「やり方」に気づく

ここまで読んで、

「では、どうすれば正しい身体の使い方になるの?」

と思うかもしれません。

でも、ここで新しい「正しい使い方」を一つ追加する必要はありません。

6.1 「何をするか」だけではなく「何をしているか」

私たちは何かを上手にやろうとするとき、

「何をすればいい?」

と考えます。

声なら、

「どうすれば大きな声が出る?」

「どうすれば高い声が出る?」

「どうすれば通る声になる?」

という具合です。

もちろん、技術を学ぶことは大切です。

ただ、それと同時に、

「私は今、声を出すために何をしている?」

と見ることもできます。

6.2 無意識の頑張りに気づく

例えば、

声を出す前に息を止めている。

肩を上げている。

顎を固めている。

胸を張っている。

身体を動かさないようにしている。

こうしたことに気づいたら、すぐに直す必要はありません。

「そうしていたんだ」

と知る。

それだけでも、自分の身体の使い方を選び直す余地が生まれます。

第7章 アレクサンダーテクニークから考える「発声と身体の使い方」

アレクサンダーテクニークでは、声を出すための決まった「正しい姿勢」を作ることだけを目標にはしません。

むしろ、声を出している自分自身が、どのように身体を使っているのかに気づいていきます。

7.1 声だけを変えようとしない

例えば、

「もっと通る声を出したい」

というとき、

喉だけを操作するのではなく、

「声を出そうとすると、私は身体全体をどうしている?」

と見てみる。

肩を固めているかもしれません。

首を固定しているかもしれません。

息を止めているかもしれません。

身体を前に押し出しているかもしれません。

こうした自分の習慣に気づくことが、身体の使い方を見直すきっかけになります。

7.2 「もっと頑張る」以外の選択肢を持つ

声が出にくいとき、私たちはつい努力を追加します。

もっと息を出す。

もっと口を開ける。

もっとお腹を使う。

もっと胸を張る。

もっと喉を開く。

でも、もしかすると必要なのは「新しい努力」ではなく、

今まで無意識にしていた余計な努力に気づくこと

かもしれません。

アレクサンダーテクニークは、そうした身体の使い方を観察する一つの方法として考えることができます。

第8章 声を出すときに、まず観察してみたいこと

最後に、声を出すときに自分で観察できるポイントを整理してみましょう。

8.1 声を出す直前

話し始める直前に、

  • 息を止めていないか
  • 肩を上げていないか
  • 首を固めていないか
  • 顎を噛みしめていないか
  • 身体を動かさないようにしていないか

を観察してみます。

8.2 声を出している最中

そして話している最中は、

「声を出すこと以外に、どんなことを頑張っている?」

と見てみます。

「大きな声を出そうとして肩に力が入っている」

「高い声を出そうとして喉を固めている」

「きれいに話そうとして口を動かしすぎている」

そんなことに気づくかもしれません。

気づいたからといって、すぐに修正する必要はありません。

まずは、

「自分はこうしていたんだ」

と知る。

そこから身体の使い方を見直していきます。

第9章 まとめ

声を出すとき、私たちは声だけを使っているわけではありません。

呼吸、喉頭、声帯、口や舌、首や肩、姿勢など、身体のさまざまな働きが関係しながら声を生み出しています。

だからといって、

「正しい姿勢を作れば声が良くなる」

「腹式呼吸をすれば声が出る」

「喉の力を抜けば声が出る」

と単純に考えることもできません。

大切なのは、

「声を出すために、自分は身体をどう使っているのか?」

に気づくことです。

声を出そうとするときに、肩を固めていないか。

息を止めていないか。

顎を固定していないか。

身体全体を「正しい形」にしようとしていないか。

まずは、そこを観察してみる。

声を変えるために何かを追加するのではなく、今まで無意識にしていたことに気づく。

そんなところから、声と身体との関係を見直すことができるかもしれません。

緊張による声の悩みを、身体の使い方から見直してみませんか?

アレクサンダーテクニークのレッスンでは、声だけを切り離して考えるのではなく、立つ・座る・歩く・話すなど、日常の身体の使い方を一緒に見ていきます。

「声を出すときに身体が固まる」

「大きな声を出そうとすると喉や肩に力が入る」

「人前で話すと身体をうまく使えなくなる」

「発声を頑張るほど、かえって疲れてしまう」

そんな方は、声そのものだけではなく、声を出している自分の身体の使い方という別の角度から、声との関係を見直してみませんか?

免責事項

※本記事は、声・発声・身体の使い方についての一般的な情報を提供することを目的としたものであり、病気や声の障害の診断・治療を目的としたものではありません。声のかすれ、痛み、発声困難などが続く場合や、急激な変化がある場合には、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。

また、本記事で紹介しているアレクサンダーテクニークの考え方は、身体の使い方を見直すための一つの方法を紹介するものであり、特定の症状の改善を保証するものではありません。

参考文献

  1. Titze IR, et al. Mechanics of human voice production and control. Journal of the Acoustical Society of America. 2016.
  2. Herbst CT. A Review of Singing Voice Subsystem Interactions—Toward an Extended Physiological Model of “Support”. Journal of Voice. 2017;31(2):249.e13–249.e19.
  3. Cardoso R, Lumini-Oliveira J, Meneses RF. Associations between Posture, Voice, and Dysphonia: A Systematic Review. Journal of Voice. 2019;33(1):124.e1–124.e12.
  4. Van Houtte E, Van Lierde K, Claeys S. Pathophysiology and treatment of muscle tension dysphonia: a review of the current knowledge. Journal of Voice. 2011;25(2):202–207.
  5. Desjardins M, Apfelbach C, Rubino M, Verdolini Abbott K. Integrative Review and Framework of Suggested Mechanisms in Primary Muscle Tension Dysphonia. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2022;65(5):1867–1893.
ブログ

BLOG

PAGE TOP