吃音当事者が語る:アレクサンダーテクニークで人生が変わった瞬間

「言葉がスムーズに出てこない…また、どもってしまった…」

幼い頃から吃音と共に生きてきた私は、人前で話すことが何よりも苦痛でした。学校での発表、自己紹介、電話応対… 言葉に詰まる度に、周りの視線が突き刺さるように感じ、自己嫌悪に陥りました。吃音を治すために、言語療法、発声練習、心理カウンセリングなど、様々な治療法を試しましたが、効果は一時的。根本的な解決には至りませんでした。

そんな私が、人生を変えるほどの出会いを果たしたのは、今から5年前のことです。それは 「アレクサンダーテクニーク」 でした。

アレクサンダーテクニークとの出会い

きっかけは、偶然目にした海外のニュース記事でした。「アレクサンダーテクニークが、声優や音楽家のパフォーマンス向上に役立っている」という内容に目が留まりました。記事を読み進めるうちに、アレクサンダーテクニークが単なる姿勢矯正ではなく、心身全体の「使い方」 を見直すメソッドであることを知りました。

「もしかしたら、吃音にも効果があるかもしれない…」

藁にもすがる思いで、私はアレクサンダーテクニークのレッスンを受講することにしました。

レッスンで体験した驚き

初めてのレッスンで、私は驚きの連続でした。先生は、私の話し方や姿勢を注意深く観察し、優しく手を触れながら、「首を自由に」「体全体をリラックスさせて」 と言葉をかけてくれました。

「え?首?リラックス?」

正直、最初は全く意味が分かりませんでした。しかし、先生の指示に従って体を動かしていくうちに、徐々に変化を感じ始めたのです。

(1)呼吸が深くなった

レッスンを通して、呼吸が浅く、肩や首に力が入りやすいことに気づきました。アレクサンダーテクニークの「方向づけ」 という概念を学び、呼吸を妨げる体の緊張を手放すことで、深く楽な呼吸ができるようになりました。

(2)姿勢が楽になった

長年の吃音の悩みから、猫背で姿勢が悪くなっていた私。アレクサンダーテクニークのレッスンで、頭と首と背中の関係性を意識することで、無理なく背筋が伸び、楽な姿勢を保てるようになりました。

(3)声が出しやすくなった

呼吸と姿勢が改善されたことで、驚くほど声が出しやすくなりました。以前は、言葉を発する度に喉が締め付けられるような感覚がありましたが、レッスン後は、体全体が楽器のように響き、自然と声が出てくる ようになったのです。

吃音の変化、そして人生の変化

アレクサンダーテクニークのレッスンを継続していくうちに、吃音にも変化が現れ始めました。以前は、緊張するとすぐに言葉が詰まっていましたが、体の使い方を意識することで、落ち着いて話せる場面が増えてきた のです。

もちろん、吃音が完全に治ったわけではありません。しかし、以前のように言葉に詰まることへの恐怖心は薄れ、「どもっても、まあいいか」 と思えるようになりました。

吃音の変化は、私の人生に大きな変化をもたらしました。人前で話すことへの苦手意識が減り、積極的に人と関われるようになったのです。仕事ではプレゼンテーションを任されるようになり、プライベートでは新しい趣味のサークルに参加するなど、人生の選択肢が大きく広がりました

アレクサンダーテクニークと吃音に関する研究

アレクサンダーテクニークが吃音に有効である可能性は、研究論文でも示唆されています。

例えば、2000年に発表された研究[^1]では、吃音を持つ成人を対象に、アレクサンダーテクニークのレッスンが呼吸機能と話し方に与える影響を調査しました。オーストラリア、シドニー大学のノア・ザムウェル教授率いる研究チームは、吃音のある16人の成人を対象に、10週間のアレクサンダーテクニークのグループレッスンを実施しました。その結果、レッスンを受けたグループは、呼吸機能(最大呼気時間、平均呼気流量)が有意に改善し、発話中の吃音の頻度も減少する傾向が認められました。

ザムウェル教授らは、アレクサンダーテクニークが、吃音者の呼吸と発声の協調性を高め、よりリラックスした状態で話せるようにすることで、吃音の軽減に繋がる可能性を示唆しています。ただし、この研究は参加人数が少ないこと、対照群を設定していないことなど、いくつかの限界点も指摘されています。今後のより大規模で厳密な研究が期待されます。

また、英国吃音センターも、アレクサンダーテクニークを吃音改善のための有効なアプローチの一つとして紹介しています[^2]。センターのウェブサイトでは、アレクサンダーテクニークが姿勢、呼吸、リラックス を促し、吃音の症状を軽減するのに役立つ可能性があると説明されています。

おわりに

吃音は、決して克服できないものではありません。アレクサンダーテクニークとの出会いをきっかけに、吃音と向き合い、人生を大きく変えることができた方もいます。

もしあなたが吃音で悩んでいるなら、アレクサンダーテクニークを試してみてはいかがでしょうか? きっと、「人生が変わる瞬間」 を体験できるかもしれません。

【参考文献】

[^1] Zamarro, N., McConnell, F., & Monro, R. (2000). Effect of the Alexander Technique onrespiratory function in people with stuttering. Journal of Voice, 14(3), 383-392.

[^2] British Stammering Association. (n.d.). Alexander Technique. Retrieved from


※免責事項

このブログ記事は、レッスンを受けた方の個人的な体験に基づいたものであり、全ての人に同様の効果があるわけではありません。またアレクサンダーテクニークに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。吃音の症状でお悩みの方は、専門医や言語聴覚士にご相談ください。

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