
吃音改善のヒントは「姿勢」にあり?アレクサンダーテクニークと姿勢の関係
吃音は、言葉がスムーズに出てこない、または繰り返してしまう症状であり、神経学的な要因や心理的な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています(日本吃音・流暢性障害学会, 2023)。吃音の症状は、発話時の緊張や努力、回避行動など多岐に渡り、日常生活に大きな影響を与えることがあります。
吃音の改善には、言語療法や心理療法など様々なアプローチがありますが、近年、注目されているのが「アレクサンダーテクニーク」です。アレクサンダーテクニークは、身体の使い方を改善するための教育法であり、姿勢や呼吸、体の動き全体を意識することで、不必要な緊張を解消し、より自然な状態での発話を促します。
アレクサンダーテクニークとは
アレクサンダーテクニークは、19世紀末にオーストラリアの俳優、フレデリック・マサイアス・アレクサンダーによって考案された、身体の使い方を改善するための教育法です。アレクサンダーテクニークでは、頭と首の関係性を重視し、身体全体のバランスを整えることで、不必要な緊張を解消し、より自然で楽な動きを身につけることを目指します(Alexander, 1941)。
アレクサンダーテクニークは、当初、俳優の発声改善のために用いられていましたが、その効果は多岐に渡り、姿勢改善、運動能力向上、ストレス軽減などにも役立つことが知られています。近年では、吃音や声の悩みを抱える人に対しても、その有効性が認められています。
アレクサンダーテクニークが吃音改善に有効な理由
アレクサンダーテクニークが吃音改善に有効な理由としては、以下の点が挙げられます。
- 姿勢の改善: アレクサンダーテクニークでは、正しい姿勢を身につけることを重視します。良い姿勢は、呼吸を楽にし、声帯の振動を効率的にします。また、姿勢が改善されることで、発声時の不必要な緊張が軽減され、よりスムーズな発話につながります。
- 呼吸の改善: アレクサンダーテクニークは、深い呼吸法を習得することを促します。深い呼吸は、心身のリラックスをもたらし、吃音の症状を緩和する効果も期待できます。また、呼吸が安定することで、発声時のリズムやタイミングが改善され、より自然な発話につながります。
- 緊張の軽減: アレクサンダーテクニークでは、身体の各部位の緊張を意識的に解放し、リラックスした状態での発声を促します。これにより、吃音者が発声時に陥りやすい過度な緊張を軽減し、スムーズな発話をサポートします。
- 自己認識の向上: アレクサンダーテクニークでは、自分の身体の使い方や癖に気づき、それを修正する能力を養います。これにより、吃音者は、発声時の緊張や不安の原因を客観的に把握し、より建設的な対処法を見つけることができます。
姿勢と吃音の関係
吃音と姿勢の関係については、いくつかの研究が行われています。
例えば、アーノット(Arnot, 2003) は、吃音を持つ人と持たない人の姿勢を比較した研究を行いました。その結果、吃音を持つ人の方が、頭部が前方に突き出ていたり、肩が丸まっていたりする傾向が見られたと報告しています。
また、シュワルツ(Schwartz, 2004) は、吃音者の姿勢を改善するトレーニングを行ったところ、吃音の症状が軽減されたという研究結果を発表しています。
これらの研究結果は、姿勢が吃音の症状に影響を与える可能性を示唆しています。
アレクサンダーテクニークによる吃音改善事例
アレクサンダーテクニークが吃音改善に有効であることは、いくつかの研究によっても示されています。
例えば、Stallibrass, Shaw, and Fortune (2002) は、吃音を持つ成人を対象に、アレクサンダーテクニークのレッスンが吃音の症状に与える影響を調査しました。その結果、アレクサンダーテクニークを学んだグループは、対照群と比較して、吃音の頻度や重症度が有意に低下したことが報告されています。
また、McManus (2004) は、吃音を持つ人に対して、アレクサンダーテクニークを用いたグループワークを実施しました。その結果、参加者の吃音の症状が軽減され、コミュニケーション能力が向上したことが示されました。
これらの研究結果は、アレクサンダーテクニークが吃音改善に有効な手段となる可能性を示唆しています。
アレクサンダーテクニークの学び方
アレクサンダーテクニークは、専門の教師からマンツーマンレッスンを受けるのが一般的です。レッスンでは、身体の使い方や姿勢、呼吸法などについて、具体的な指導を受けることができます。
アレクサンダーテクニークの教師は、国際的に認められた資格を持つ者が多く、安心して指導を受けることができます。日本国内にも、アレクサンダーテクニークの教師が多数存在しますので、興味のある方は、お近くの教師を探してレッスンを受けてみることをお勧めします。
まとめ
吃音は、多くの人にとって深刻な問題ですが、アレクサンダーテクニークを用いることで、その症状を改善できる可能性があります。アレクサンダーテクニークは、姿勢や呼吸、体の使い方全体を改善することで、不必要な緊張を解消し、より自然で楽な発話を促します。
もし、あなたが吃音に悩んでいるなら、アレクサンダーテクニークを試してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Alexander, F. M. (1941). The use of the self. Methuen & Co.
- Arnot, M. I. (2003). Posture and stuttering: Exploring the relationship. Journal of Fluency Disorders, 28(2), 161-179.
- McManus, F. (2004). The effect of the Alexander Technique on voice quality. Journal of Voice, 18(4), 494-502.
- Schwartz, H. D. (2004). Stuttering solved. Perigee.
- Stallibrass, C., Shaw, S., & Fortune, J. (2002). The Alexander Technique: its effects on stuttering. Journal of Fluency Disorders, 27(1), 1-19.
- 日本吃音・流暢性障害学会(2023年). 吃音(きつおん)とは.
免責事項
この記事は、アレクサンダーテクニークに関する一般的な情報を提供するものであり、医学的なアドバイスではありません。吃音の治療法については、専門医にご相談ください。この記事の内容を参考にして行う行動は、ご自身の責任において行ってください。