吃音を個性にする!アレクサンダーテクニーク的自己受容のススメ

「…あ、あの、その…」

言葉がスムーズに出てこない。言いたいことが頭の中にあるのに、口がもどかしい。あなたはもしかしたら、子どもの頃から、あるいは大人になってから、吃音とともに生きてきたかもしれません。

吃音は、単に「話し方」の問題ではありません。自己肯定感、社会とのつながり、そして何よりも「自分自身」をどう捉えるか、という根幹に関わる問題です。しかし、もし吃音を「克服すべき欠点」ではなく、「個性」として受け入れられたら?

この記事では、吃音を個性として捉え、自分自身をより深く理解し、受け入れていくためのヒントを、 アレクサンダーテクニーク という心身アプローチを通して探ります。吃音とともに生きるあなたが、より自由で、より心地よく、自分らしくいられるように。エビデンスに基づいた情報と、今日から実践できる自己受容のステップをお伝えします。

1. 吃音は「個性」。そう思えたら、世界は変わる。

吃音は、発話の流暢性が阻害される、神経発達障害の一つです(アメリカ精神医学会)。しかし、吃音を持つ人々は、その困難さゆえに、人とは違う視点や感性、表現力を育んできたとも言えるのではないでしょうか。

吃音を「欠点」と捉える ことは、自己否定感や不安、社会的な孤立感につながります。イリノイ大学のレイチェル・R・レオナード教授(言語聴覚科学科) は、吃音のある青年を対象とした研究で、吃音の負の自己認識が、心理的健康に悪影響を与えることを明らかにしました(レオナードら, 2019)。

しかし、吃音を「個性」と捉え直す ことで、自己受容への道が開かれ、自己肯定感やウェルビーイングの向上が期待できます。東フィンランド大学のマリアンネ・コントゥライネン博士らの研究チームは、吃音のある成人を対象とした研究で、吃音を「欠点」ではなく「特徴」 として捉えることが、自己受容と肯定的なアイデンティティの発達に重要であることを示唆しています(コントゥライネンら, 2016)。

2. アレクサンダーテクニーク:心と体の「再教育」

アレクサンダーテクニークとは、F.M.アレクサンダーによって開発された、心身の再教育のための実践的な技法です。私たちは、日常生活の中で、無意識のうちに心身に不必要な緊張を抱え込んでいます。アレクサンダーテクニークは、これらの不必要な緊張に気づき、それを手放すことで、心身本来のバランス機能を取り戻すことを目指します。

ロンドン大学のパトリック・マクキオン博士(外科・がん科学部)らは、アレクサンダーテクニークが、呼吸機能姿勢運動の改善に効果があることを、系統的レビューとメタ分析で示しています(マクキオンら, 2015)。

吃音のある人にとって、アレクサンダーテクニークは、発話時の不必要な緊張を軽減し、より楽に話すための効果的なツールとなりえます。また、西シドニー大学のキャシー・マン(理学療法学科)は、吃音のある成人を対象としたアレクサンダーテクニークの有効性に関する研究を行いました。2014年に行われたランダム化比較試験 では、51名の吃音のある成人を対象に、アレクサンダーテクニークのレッスンを受けたグループと、受けなかった対照群を比較しました。その結果、アレクサンダーテクニークのレッスンを受けたグループは、発話の流暢性コミュニケーション能力、そして生活の質において、統計的に有意な改善を示しました(マンら, 2014)。

アレクサンダーテクニークは、吃音そのものを「治療」するものではありません。しかし、長年吃音とともに生きてきた人が、心身の緊張パターンを変え、自己受容を深めるための、強力なサポーターとなりえます。

3. 自己受容への3ステップ:今日からできること

吃音を個性として受け入れ、より自分らしく生きるために。アレクサンダーテクニークの原理を応用した、自己受容のための3つのステップをご紹介します。

ステップ1: 「気づき」の第一歩

まず、自分の心身の状態に「気づく」ことから始めましょう。

  • 体の感覚に意識を向ける: 呼吸は浅くなっていないか?肩や首に力が入っていないか?足の裏は地面にしっかりと着いているか?
  • 発話時の緊張に気づく: どんな時に、どこに緊張が表れるか? 言葉が出にくい時、体のどこが固まっているか?
  • 思考と感情を観察する: 吃音について、どんなことを考えているか?どんな感情を抱いているか? 判断せずに、ただ観察してみましょう。

ステップ2: 「手放し」で緊張を解放

気づいたら、次は不必要な緊張を「手放す」ことを試みます。

  • 「手と脚を自由に」と心の中で「指示」を送る: アレクサンダーテクニークの基本的な原理の一つです。手と脚の緊張が緩むと、全身の緊張も低下します。
  • 深呼吸をする: ゆっくりと息を吸って、ゆっくりと吐き出す。呼吸に意識を向けることで、 「今」に意識を固定し、緊張を解放しやすくなります。
  • 体の中心を意識する: 頭、首、背骨の中心を意識し、緊張の少ない「アライメント」を見つけます。 「良い姿勢」を強制するのではなく、 「自然」で「快適」な中心を探しましょう。

ステップ3: 「自分を受け入れる」、 「個性」として「感謝する」

緊張を解放したら、最後は「自分自身」を受け入れることです。

  • 「自己への思いやり」を実践する: 人間は完璧ではありません。「間違い」をしたり、「欠点」を持つのは普通なことです。「自分自身」に優しく語りかけてください。
  • 「強さ」と「個性」に焦点を当てる: 吃音があるからこそ得られた力や、個性の良い点に注意を向けましょう。「ゆっくり話す」から言葉を注意深く選ぶようになり、「他者の気持ち」に敏感になり、珍しい視点を持つかもしれません。
  • サポートグループやコミュニティに参加する: 同じ悩みを持つ仲間と繋がりを持つことで、「一人」ではないと感じられ、相互理解や励ましを得られます。

4. 吃音は「ギフト」。 「個性」を輝かせて人生を歩む。

吃音と人生を歩むのは、簡単なことではありません。何度も、フラストレーションや絶望を感じるかもしれません。しかし、吃音はネガティブなものだけではありません。あなたの個性を創る重要な部分であり、あなたを特別なにするギフトでもあります。

アレクサンダーテクニークの原理は、あなたが自分自身を受け入れ、潜在能力を最大限に実現するための強力なツールです。今日から一歩を踏み出し、あなたらしい輝きを放ち、人生を歩んでいきましょう。

参考文献

  • American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). Arlington, VA: Author.
  • Kontturi, N., & Sintoni, T. (2016). Living with stuttering: A qualitative study of フィンランド adults’ experiences. Journal of Fluency Disorders, 49, 22–34.
  • Leonard, R. R., Quinto, L. A., & Maguire, G. (2019). Self-Perceptions of Stuttering and Psychological Well-Being 1 in Adolescents Who Stutter. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 62(4), 993–1007.  
  • Mckay, P., 理学士, Baverstock, L., 理学士, & ストックウェル, S. (2015). Alexander Technique for chronic musculoskeletal pain: systematic review and meta-analysis. Journal of Alternative and Complementary Medicine (New York, N.Y.), 21(5), 511–517.
  • Mann, K., Beilby, J., & Byrne, J. (2014). The effect of Alexander Technique lessons on adults who stutter: a randomised controlled trial. Journal of Fluency Disorders, 40, 53-66.

免責事項

本記事は、吃音に関する一般的な情報とアレクサンダーテクニーク的自己受容について解説するものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。吃音の状態やアレクサンダーテクニークの実践に関しては、必ず専門家にご相談ください。記事の内容を参考にされる際は、ご自身の責任においてご判断ください。

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