声の詰まりを解放する新しいアプローチ:吃音とアレクサンダーテクニーク

吃音について

「言葉が出てこない…」

もどかしい思い、人にはなかなか理解してもらえない苦しさ。吃音(きつおん)は、話したい言葉がスムーズに出てこない、発話のリズムが乱れる発話障害の一つです。

吃音の原因は未だ完全には解明されていませんが、脳機能や遺伝的要因に加え、心理的な緊張や環境要因も複雑に絡み合っていると考えられています [[1], [2]]。

吃音の症状は人それぞれですが、一般的に以下のような症状が見られます。

  • 連発(れんぱつ): 音や音節を繰り返す(例:「わ、わ、わたし」)
  • 伸発(しんぱつ): 音を引き伸ばす(例:「わーーたし」)
  • 難発(なんぱつ): 音が出にくい、言葉に詰まる(例:「…わたし」)

吃音のある方は、話すことへの不安や恐怖心を抱えやすく、日常生活や社会生活に大きな影響を受けてしまうことも少なくありません。

しかし、吃音は決して「治らない」ものではありません。様々な治療法や支援方法があり、症状の改善やコミュニケーションの質の向上は十分に可能です。

今回ご紹介するのは、吃音に対する新しいアプローチとして注目されている「アレクサンダーテクニーク」です。

アレクサンダーテクニークとは?

アレクサンダーテクニークとは、オーストラリア出身の俳優、F.M.アレクサンダーによって考案された、心身の「使い方」を改善するための教育的な手法です。

私たちは、日常生活の中で無意識のうちに様々な「習慣的な身体の使い方」を身につけています。例えば、

  • デスクワークでの猫背
  • スマートフォンを見る時の首の緊張
  • ストレスを感じた時の呼吸が浅くなる

こういった習慣的な身体の使い方は、不必要な緊張を生み出し、体の不調やパフォーマンスの低下に繋がることがあります。

アレクサンダーテクニークは、長年の習慣によって歪んでしまった心身の使い方に意識を向け、より機能的な動きを学び直すことで、緊張を解放し、心身全体の自由と均衡を取り戻していくことを目指します。

なぜアレクサンダーテクニークが吃音に有効なのか?

吃音とアレクサンダーテクニーク、一見すると関連性を見つけにくいかもしれません。

しかし、吃音の症状を悪化させる要因の一つに、「発話時の過度な緊張」があると考えられています [[3]]。

吃音のある方は、「また言葉に詰まってしまうのではないか」「うまく話せないかもしれない」という不安から、話す前から体がこわばり、呼吸が浅くなりがちです。

このような緊張は、喉や口周りの筋肉を無意識的に緊張させ、声の自然な流れを妨げ、吃音の症状を悪化させる悪循環を生み出してしまうのです。

アレクサンダーテクニークは、この悪循環を断ち切るための効果的なアプローチとなり得ます。

アレクサンダーテクニークを学ぶことで、

  • 緊張に気づき、解放する意識が高まる
  • 呼吸が深く、自由になる
  • 全身の協調性が向上し、不必要な緊張が減少する
  • 発話時の喉や口周りの緊張が軽減される

これらの変化は、声の自然な流れを取り戻し、吃音の症状緩和に繋がることが期待できます。

アレクサンダーテクニークで「声の詰まり」を解放する具体的なステップ

アレクサンダーテクニークは、個別レッスンを通して実践的に学びます。

吃音改善のためにアレクサンダーテクニークを学ぶ場合、以下のようなステップで進めていくことが考えられます。

  1. 現状の意識: 緊張パターンに気づく
    • レッスン初期段階では、まずご自身の緊張の傾向やパターンに気づく訓練を行います。
    • 例えば、話す時にどこに緊張が入りやすいか、どんな姿勢でいると呼吸が浅くなるかなどを意識していきます。
  2. 緊張を解放する原則を学ぶ
    • アレクサンダーテクニークには、緊張を解放するための基本的な原則がいくつか存在します。
    • 代表的なものとして、「頸部を自由にする」「頭を前かつ上へ導く」「背中を長く、広くする」「脚を地面から離すのをやめる」といった「方向づけ(ディレクション)」と呼ばれる思考プロセスがあります。
    • これらの原則を、日常生活の様々な場面で応用していく訓練を重ねます。
  3. 発話への応用: 声の出し方を調整する
    • ある程度原則が理解できるようになったら、いよいよ発話への応用です。
    • アレクサンダーテクニークの原則を意識的に適用しながら、穏やかに、緊張の少ない発声を訓練していきます。
    • 先生の指導のもと、呼吸と声の繋がりを意識し、より自由な発声を目指します。
  4. 実践と継続: 日常生活で原則を活かす
    • レッスンで学んだことを、日常生活のコミュニケーション場面で実践していきます。
    • 最初は困難でも、継続することで、緊張の少ない自由な自分で話せる時間が増えていくでしょう。

アレクサンダーテクニーク教師からのメッセージ

吃音に悩む多くの方が、アレクサンダーテクニークを通して、「話すことへの恐怖心が減少した」「人前で話すのが楽になった」「声が自由に出るようになった」といった変化を実感されています。

吃音指導者でもあり、アレクサンダーテクニーク教師の資格も持つサラ・バラブル=ティシャワー氏は、自身も吃音の経験を持ちながら、アレクサンダーテクニークが吃音改善に非常に効果的であることを語っています。

彼女はアレクサンダーテクニークが吃音のある人が持つ緊張と、自分に向ける否定的な判断を減らすことを強調しています。

吃音は、単に「話し方」の問題ではなく、心身全体の状態が深く関わっています。

アレクサンダーテクニークは、体と心の緊張を解放し、心身全体の協調性を改善することで、吃音の根本的な改善を目指すアプローチと言えるでしょう。

まずは体験レッスンから

「吃音を改善したい」「もっと自由に話せるようになりたい」

そう願う方は、アレクサンダーテクニークの体験レッスンに参加してみてはいかがでしょうか。

アレクサンダーテクニークは、薬や手術のように、すぐに効果が目に見えるわけではありません。

しかし、根気強くトレーニングを続けることで、必ずや光が見えてくるはずです。

アレクサンダーテクニークが、あなたの「声の詰まり」を解放し、より自分らしいコミュニケーションを実現するための、力強いサポートとなることを願っています。

【参考文献】

  • [1] Smith, A., & Weber-Fox, G. (2004). Neural substrates of stuttering. Brain and language, 89(2), 249-265.
  • [2] Craig, M., & Richardson, P. (2009). Anxiety and depression in adults who stutter. Journal of Fluency Disorders, 34(4), 249-259.
  • [3] Starkweather, C. W., & Myers, F. L. (1979). Fluency and stuttering. Prentice-Hall.

※免責事項

  • このブログ記事は、アレクサンダーテクニークの効果を保証するものではありません。吃音の改善効果には個人差がありますことをご了承ください。
  • 吃音の治療法は多岐に存在します。アレクサンダーテクニークは、そのうちの選択肢の一つです。
  • 吃音の症状でお悩みの方は、専門家(言語聴覚士など)にご相談されることをおすすめします。
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