長く話すと、声が疲れてしまいませんか?|声の疲れを身体の使い方から考える

「一日たくさん話した日は、声が疲れる」

「仕事で長時間話していると、喉が重くなる」

「最初は普通に話せるのに、時間が経つと声が出しにくくなる」

そんな経験はありませんか?

声を長く使えば、ある程度疲れるのは自然なことです。

ただ、同じくらい話していても、あまり疲れない日もあれば、すぐに喉や首がつらくなる日もあります。

では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。

声の疲れは、喉だけの問題として考えるのではなく、**「話しているとき、自分の身体をどのように使っているか」**という視点から観察してみることもできます。

この記事では、長く話すときに起こりやすい身体の使い方を見ながら、実際に自分の声と身体を観察する方法をご紹介します。

第1章 なぜ、長く話すと声が疲れるの?

1.1 「声を出す」という仕事を喉だけに任せていませんか?

話しているとき、私たちは声帯だけを使っているわけではありません。

呼吸をし、声を出し、舌や唇を動かし、言葉を組み立て、相手の反応を見ながら話しています。

つまり、会話は身体全体を使った活動です。

ところが、声が疲れてくると、

「もっと声を出さなきゃ」

「喉をしっかり使わなきゃ」

「聞こえるように頑張らなきゃ」

と、声そのものに意識が集中しやすくなります。

すると、知らないうちに首や肩、顎、胸、お腹などにも余計な力が入っていることがあります。

1.2 声の疲れには、さまざまな要因があります

声の疲労は一つの原因だけで起こるものではありません。

声を使う時間、声の大きさ、休息、環境、発声の仕方など、さまざまな要素が関係します。

2023年に発表された声の疲労に関するスコーピングレビューでは、声の疲れに関連する症状として、休息後の声の回復、身体的な不快感、声の使用が制限される感覚などが報告されています。また、専門的に声を使う人では、非専門的な声の使用者より声の疲労に関する指標が高い傾向も報告されています。

つまり、「喉が弱いから疲れる」と単純に考える必要はありません。

第2章 「もっと頑張って話す」が、疲れにつながることもある

2.1 声が小さいと、身体を固めていませんか?

例えば、静かな場所で話すときは普通に声が出るのに、騒がしい場所では声が疲れやすいことがあります。

そんなとき、

「もっと大きな声を出そう」

と頑張ることで、首や肩、喉の周辺まで一緒に力が入っていないでしょうか。

もちろん、声を大きくすること自体が悪いわけではありません。

問題は、「声を大きくするために、身体全体を固める」という方法が習慣になっていないかということです。

2.2 「支える」と「固める」は同じではありません

話すときには呼吸や身体の働きが必要です。

そのため「身体を使わなければ」と考えることもあるでしょう。

しかし、

「身体を使う」

ことと、

「身体を固める」

ことは同じではありません。

肩を上げたり、胸を張ったり、お腹を固めたり、顎を固定したりしなくても、私たちは話すことができます。

ここは、実際に自分の身体を観察してみると分かりやすいところです。

第3章 長く話すとき、自分の身体を観察してみよう

3.1 まず、普段どおりに30秒ほど話してみる

難しいことはしなくて大丈夫です。

誰かに話しかけるつもりで、30秒ほど声に出してみてください。

例えば、

「今日あったこと」

「最近興味があること」

など、何でも構いません。

話し終わったら、すぐに身体を評価しようとせず、少し立ち止まってみます。

首はどうでしょうか。

肩はどうでしょうか。

顎や舌はどうでしょうか。

胸やお腹は固まっていないでしょうか。

大切なのは、

「ここが悪い」と判断しないこと。

ただ、

「こんなふうになっていたんだ」

と気づいてみます。

3.2 もう一度話して、変化を観察する

次に、同じように30秒ほど話してみます。

今度は「力を抜こう」としなくて大丈夫です。

むしろ、

「話している自分全体に気づいている」

くらいで十分です。

声を出しているとき、首や肩がどうなっているか。

呼吸を止めていないか。

言葉を出す直前に身体を固めていないか。

声が出た後も、必要以上に力を入れ続けていないか。

そんなことを観察してみてください。

「力を抜く」のではなく、自分が何をしているのかに気づく。

これが一つの大きなポイントです。

第4章 「喉が疲れたから、喉を休ませる」だけではない視点

4.1 声の問題には、身体全体の使い方も関係する

声の疲労や発声の不調には、さまざまな要因があります。

例えば筋緊張性発声障害(Muscle Tension Dysphonia)では、喉頭周辺の過剰な筋緊張が声の問題と関連することが知られています。ただし、その背景には発声習慣だけでなく、さまざまな要因があり、一つの原因だけで説明できるものではありません。

また、筋緊張性発声障害に対する音声治療については、複数の研究をまとめたレビューで改善が報告されていますが、研究方法には限界もあり、どの要素が治療効果に最も寄与するのかについては、さらに研究が必要とされています。

だからこそ、

「喉をどうするか」

だけではなく、

「話しているとき、自分は身体全体をどう使っているのか」

という視点を持つ意味があります。

4.2 声を変えようとする前に、自分の使い方を見る

「もっと通る声にしたい」

「疲れない声にしたい」

と思うと、声そのものを変えようとすることが多いでしょう。

でも、その前に、

「声を出そうとしている私は、何をしている?」

と観察してみる。

例えば、声を出す瞬間に首を固めている。

相手に届かせようとして胸を張っている。

聞き返されないように、毎回強く声を押し出している。

そうした習慣に気づくことができれば、声そのものを無理に変えようとしなくても、新しい選択肢が見えてくるかもしれません。

第5章 「疲れないようにしよう」と頑張らない

5.1 疲れをなくそうとすると、また力が入る

ここは少し面白いところです。

「今日は喉を疲れさせないようにしよう」

と意識すると、今度は、

「喉をリラックスさせなきゃ」

「肩を下げなきゃ」

「正しく話さなきゃ」

と、新しい努力が始まることがあります。

これでは、せっかく余計な力みに気づいたのに、別の力みを作ってしまいます。

大切なのは、

「疲れない身体を作る」ことより、「今、自分が何をしているのかに気づく」こと。

その気づきから、必要以上に身体を固めなくても話せる可能性を探っていきます。

第6章 長く話すときの身体を、その場で観察してみよう

6.1 普通に話す

まず、30秒ほど自然に話します。

内容は自由です。

声の大きさや話し方を変えようとせず、普段どおりに話してみましょう。

6.2 身体全体に気づく

次に、話しながら、

「首はどうなっている?」

「肩はどうなっている?」

「顎は?」

「呼吸は?」

と、一つずつ確認してみます。

全部を同時に直す必要はありません。

むしろ、直そうとしないことが大切です。

6.3 もう一度、話してみる

最後に、もう一度話します。

今度は、

「いい声を出そう」

「疲れないようにしよう」

「力を抜こう」

と頑張るのではなく、

「身体全体に気づきながら話す」

ことだけを試してみてください。

声が劇的に変わる必要はありません。

「さっきより顎が固まっていない」

「肩を上げなくても話せる」

「話しているときの自分に気づきやすい」

そんな小さな違いがあれば、それも大切な発見です。

第7章 アレクサンダーテクニークから考える「話す身体」

7.1 「良い声」を作る前に、自分の使い方を見る

アレクサンダーテクニークでは、単純に「正しい姿勢」を作ったり、「喉の力を抜く」ことだけを目指したりするわけではありません。

話す、立つ、座る、歩くといった日常の活動の中で、

自分がどのように身体を使っているのか

に気づいていきます。

例えば、話し始める直前に身体を固める習慣があったとしたら、

「もっとリラックスしよう」

と無理に変えるのではなく、

「今、私は話す前に身体を固めているな」

と気づいてみる。

そこから、別の使い方を探していきます。

7.2 声だけではなく、「話している自分」を見る

これは、声の練習とは少し違う視点です。

「どんな声を出しているか」だけを見るのではなく、

「どんな状態で話しているのか」

を見る。

アレクサンダーテクニークについて、音楽家を対象とした研究をまとめた系統的レビューでは、演奏パフォーマンスや姿勢、呼吸機能についての結果は一貫していない一方、演奏不安については改善を示した研究が報告されています。したがって、アレクサンダーテクニークの効果についても、特定の声の症状を改善すると断定するのではなく、身体の使い方や緊張への気づきを学ぶ方法として捉えるのが適切です。

第8章 声が疲れたとき、「もっと頑張る」以外の選択肢を

長く話して声が疲れてくると、

「もっと声を出さなきゃ」

「喉を鍛えなきゃ」

「正しい姿勢にならなきゃ」

と考えてしまうことがあります。

でも、そこで一度立ち止まって、

「私は今、話すために何をしているんだろう?」

と観察してみる。

首を固めているかもしれない。

肩を持ち上げているかもしれない。

顎を固定しているかもしれない。

あるいは、特に何も問題がないかもしれません。

大切なのは、正解を決めることではありません。

自分の身体の使い方に気づくことです。

声は喉だけで作っているものではありません。

そして、長く話すという活動も、喉だけで行っているものではありません。

「声を変えよう」とする前に、「声を出している自分」に気づいてみる。

そこから、今までとは違った話し方が見つかることがあります。

第9章 まとめ|声の疲れを「身体全体」から見てみる

長く話すと声が疲れる。

それ自体は、決して珍しいことではありません。

ただ、

  • 話すとすぐ喉が疲れる
  • 長時間話すと首や肩までつらくなる
  • 声を大きくしようとすると苦しくなる
  • 話しているうちに声が出しにくくなる
  • 「頑張って話す」ことが習慣になっている

という場合には、一度、自分の身体の使い方を観察してみるのも一つの方法です。

「力を抜こう」と頑張るのではなく、

「私は今、何をしている?」

と気づく。

その小さな気づきが、声との付き合い方を変えるきっかけになるかもしれません。

アレクサンダーテクニークのレッスンでは、話す・立つ・座るなどの実際の活動を通して、自分自身の身体の使い方を観察していきます。

声そのものを無理に変えるのではなく、声を出している自分全体に気づいていく。

そんなところから、一緒に探していくことができます。

免責事項

この記事は、アレクサンダーテクニークの考え方や身体の使い方について紹介するものであり、医学的な診断や治療を行うものではありません。

声のかすれ、痛み、声が出しにくい状態などが長く続く場合や、急激な声の変化がある場合は、自己判断で対処せず、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。

また、アレクサンダーテクニークが特定の声の症状を治療・改善することを保証するものではありません。

参考文献

  1. Lemos IO, Marchand DLP, Cunha EO, et al. What are the Symptoms that Characterize the Clinical Condition of Vocal Fatigue? A Scoping Review and Meta-Analysis. Journal of Voice. 2025;39(3):844.e1–844.e18.
  2. Pereira GC, Lemos IO, Gadenz CD, Cassol M. Effects of Voice Therapy on Muscle Tension Dysphonia: A Systematic Literature Review. Journal of Voice. 2018;32(5):546–552.
  3. Van Houtte E, Van Lierde K, Claeys S. Pathophysiology and treatment of muscle tension dysphonia: a review of the current knowledge. Journal of Voice. 2011;25(2):202–207.
  4. Klein SD, Bayard C, Wolf U. The Alexander Technique and musicians: a systematic review of controlled trials. BMC Complementary and Alternative Medicine. 2014;14:414.
  5. Pacheco-Pereira C, et al. The behavioural treatment of muscle tension voice disorders: A systematic review. Logopedics Phoniatrics Vocology. 2015.
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