アレクサンダーテクニークのレッスンでは、何をするの?|身体の使い方に気づくレッスン
「アレクサンダーテクニークって、実際には何をするんですか?」
これは、初めてレッスンを受ける方からよく聞かれる質問の一つです。
「姿勢を直してもらうの?」
「身体をマッサージするの?」
「ストレッチをするの?」
「先生に身体を動かしてもらうの?」
名前を聞いたことはあっても、実際のレッスンがどのようなものなのかは、少しイメージしにくいかもしれません。
アレクサンダーテクニークのレッスンを一言で表すなら、
「自分自身の身体の使い方に気づき、必要以上の緊張や習慣的な使い方を見直していく時間」
と表現できます。
もちろん、ただ身体を観察して終わるわけではありません。
立つ、座る、歩く、話す、声を出すなど、実際の活動を通して、自分が普段どのように身体を使っているのかを一緒に見ていきます。
この記事では、実際のレッスンで何をするのか、そして読んでいる今すぐできる簡単な観察も紹介します。
第1章 アレクサンダーテクニークは、何をするレッスン?
まず、一番気になるところから見ていきましょう。
1.1 「姿勢を正す」ためのレッスンではありません
アレクサンダーテクニークというと、
「良い姿勢を身につけるもの」
というイメージを持っている方もいるかもしれません。
しかし、単純に「背筋を伸ばしましょう」「胸を張りましょう」と正しい姿勢を作ることが目的ではありません。
むしろ、
「良い姿勢にしようとして、自分は何をしているのか?」
というところから見ていきます。
例えば、
「背筋を伸ばそう」とすると、胸を張る。
胸を張ると、肩が後ろに引かれる。
肩を引くと、首が固くなる。
首が固くなると、呼吸まで窮屈に感じる。
このように、「良い姿勢」を作ろうとすることで、別の場所に余計な力が入ることがあります。
大切なのは、正しい形を覚えることだけではありません。
自分が無意識に行っていることに気づくこと。
それがレッスンの大切な部分です。
1.2 身体を無理に変えるのではなく、自分の使い方に気づく
アレクサンダーテクニークでは、身体を無理に矯正することよりも、自分自身の使い方を観察していきます。
「私は今、どうやって立っているんだろう?」
「座るとき、どこに力を入れているんだろう?」
「声を出すとき、何をしているんだろう?」
そんな問いを持って、自分の身体を見ていきます。
そのため、レッスンは「先生が身体を正しい位置に戻してくれる時間」というより、
自分自身が自分の身体について学んでいく時間
と考えると分かりやすいでしょう。
実際、慢性・再発性の腰痛を対象とした大規模なランダム化比較試験では、アレクサンダーテクニークの個人レッスンについて、身体の使い方に関する習慣を認識・理解し、見直していくことを含む介入として説明されています。
第2章 レッスンでは、まず自分の身体を観察する
では、実際にはどのようなことをするのでしょうか。
レッスンでは、立つ・座る・歩くなど、日常的な動作を題材にすることがあります。
2.1 立っているとき、身体はどうなっている?
まず、普通に立ってみます。
「良い姿勢にしよう」としなくて大丈夫です。
そのまま立って、
「足の裏はどうなっている?」
「膝はどうなっている?」
「お腹は?」
「肩は?」
「首は?」
「頭は?」
と、順番に観察してみます。
ここで重要なのは、直そうとしないことです。
肩が上がっていてもいい。
身体が左右に偏っているように感じてもいい。
「これは悪い姿勢だ」と評価する必要もありません。
まずは、
「今、自分はこうなっている」
と知るだけです。
2.2 座るとき、何をしている?
次に、椅子に座ってみます。
そして、いつものように座ってみてください。
そのとき、
「座るために身体をどう動かした?」
と考えてみます。
腰を後ろに引いたでしょうか。
頭を前に出したでしょうか。
肩をすくめたでしょうか。
それとも、特に意識していなかったでしょうか。
普段は当たり前すぎて気づかない動作にも、自分なりの習慣があります。
レッスンでは、こうした日常の動作を題材にして、自分の身体の使い方を学んでいきます。
2.3 声を出すとき、どこに力が入る?
声に悩みがある方なら、ここも大切です。
「こんにちは」
と、いつものように声を出してみます。
そして、声を出す前と後で身体を観察してみます。
声を出す直前に、
首が固くなっていないでしょうか?
肩が上がっていないでしょうか?
顎を噛みしめていないでしょうか?
息を止めていないでしょうか?
もちろん、これらがあったからといって「悪い」ということではありません。
ただ、
「自分は声を出すとき、こんなことをしているんだ」
と気づくことができます。
第3章 「正しい身体の使い方」を教えてもらうのではない
ここは、アレクサンダーテクニークを理解するうえで重要なところです。
3.1 良い姿勢を作ることと、自然に立つことは違う
「姿勢を良くしましょう」
と言われたら、多くの人は何かをします。
背筋を伸ばす。
胸を張る。
お腹を引く。
肩を下げる。
顎を引く。
でも、それらを全部頑張った結果、身体全体が固くなってしまうこともあります。
そこで、
「正しい姿勢を作る」ことから一度離れてみる。
そして、
「今、自分は何をしている?」
と観察する。
この違いはとても大きいものです。
3.2 身体を操作するのではなく、習慣に気づく
私たちは、毎日同じような身体の使い方を繰り返しています。
立つ。
座る。
歩く。
話す。
パソコンを見る。
スマートフォンを見る。
楽器を演奏する。
歌う。
こうした活動の中で、無意識の習慣ができていきます。
その習慣は、本人にとってはあまりにも当たり前なので、「自分が何をしているのか」に気づきにくいものです。
レッスンでは、その「当たり前」を一緒に見ていきます。
3.3 「こうしなきゃ」を一度手放してみる
「背筋を伸ばさなきゃ」
「肩を下げなきゃ」
「喉を開かなきゃ」
「緊張しないようにしなきゃ」
こうした「こうしなきゃ」が増えるほど、身体をコントロールする努力も増えていきます。
そこで、
「本当に今、それをしなければならないのかな?」
と、一度立ち止まってみる。
何かを新しく加えるのではなく、今まで無意識にしていたことに気づく。
それもアレクサンダーテクニークの大切な考え方です。
第4章 レッスンでは、先生からどのように身体に触れてもらうの?
アレクサンダーテクニークのレッスンでは、教師が手を使って生徒の身体に触れながらガイドすることがあります。
4.1 手によるガイダンスで身体の動きを感じる
例えば、立ったり座ったりする動作の中で、教師が背中や首などに軽く手を添え、動きをガイドすることがあります。
これは、身体を「正しい位置に押し込む」ためではありません。
言葉だけでは気づきにくい身体の使い方を、触れることを通して感じてもらうためのものです。
大規模な腰痛の臨床試験でも、アレクサンダーテクニークのレッスンは、個人の身体の使い方を評価しながら、言葉による指示と手によるガイダンスを用いて行われています。
4.2 触れられることで、自分では気づきにくい緊張に気づく
自分では、
「首に力が入っている」
と思っていなかったのに、触れられて初めて、
「意外と固くしていたんだ」
と気づくことがあります。
逆に、
「もっと力を抜かなきゃ」
と思っていたけれど、実は必要以上に身体を操作していたことに気づく場合もあります。
つまり、触れられることは「正しい身体にしてもらう」ためではなく、自分自身の身体を知るための情報の一つなのです。
4.3 身体を無理に動かしたり、矯正したりするものではない
ここは誤解されやすいところです。
アレクサンダーテクニークのハンズオンは、整体やマッサージのように筋肉を揉みほぐすことを目的としたものではありません。
また、無理に関節を動かしたり、「ここが正しい位置です」と身体を固定したりするものでもありません。
あくまで、
自分自身の身体の使い方に気づくためのガイダンス
として行います。
第5章 声を出す人は、レッスンで何をする?
ここからは、現在のサイトでも大切にしている「声」について考えてみましょう。
5.1 声を出す前に、身体に何をしているか観察する
例えば、人前で話すとき。
「さあ、話そう」
と思った瞬間に、身体を固めていないでしょうか?
胸を張る。
息を吸う。
喉を開こうとする。
顎を引く。
声を出す準備をする。
こうした行動が無意識に起こっているかもしれません。
レッスンでは、その瞬間を丁寧に観察します。
5.2 「いい声を出そう」とする自分に気づく
歌う人なら、
「きれいな声を出したい」
「高音を出したい」
「響かせたい」
と思うでしょう。
話す人なら、
「聞き取りやすく話したい」
「大きな声を出したい」
「緊張せずに話したい」
と思うかもしれません。
これらは自然な願いです。
しかし、その願いを実現しようとする過程で、身体に余計な力を加えていないでしょうか?
アレクサンダーテクニークでは、**「何を達成するか」だけでなく、「それをしようとしている自分が何をしているか」**にも注意を向けます。
5.3 話す・歌うという活動の中で身体全体を見る
声は喉だけで出しているわけではありません。
呼吸をし、立ったり座ったりし、頭や首を動かし、口や舌を使い、相手との関係の中で言葉を発しています。
だからこそ、
「喉をどうする?」
だけではなく、
「話している私は、身体全体をどう使っている?」
という視点を持つことができます。
音楽家を対象にしたアレクサンダーテクニーク研究の系統的レビューでは、演奏、不安、呼吸、身体の使い方などについて複数の研究が検討されています。一方で、研究数や結果には限界があり、すべての効果について確立した結論が出ているわけではありません。
第6章 実際に、自分の身体の使い方を観察してみよう
ここでは、今この記事を読んでいる場所でできる簡単な観察をしてみましょう。
6.1 立ったまま「姿勢を良くしよう」としてみる
まず立ちます。
そして、
「姿勢を良くしよう」
と思ってください。
背筋を伸ばして、胸を張って、少し顎を引いてみます。
どんな感じがするでしょうか?
そのまま数秒観察します。
6.2 そのとき、首や肩はどうなっている?
次に、
「姿勢を良くしよう」とする前と比べて、身体のどこが変わったかを見てみます。
肩は?
首は?
胸は?
背中は?
顎は?
呼吸は?
もしかすると、「姿勢を良くする」という一つの指示によって、身体のいろいろな場所が一緒に変化していたかもしれません。
6.3 「良くしよう」とするのをやめたら何が変わる?
では今度は、
「姿勢を良くしなくてもいい」
と思ってみます。
さっき作った姿勢を維持しようとせず、普通に立ちます。
そして、
「さっきと何が違う?」
と観察してみてください。
ここで「楽になった」「何も変わらない」「逆に不安定に感じる」など、どんな感覚でも構いません。
大切なのは、正解を探すことではありません。
自分が何をすると身体の感覚が変わるのかを知ること。
それが今回の観察の目的です。
6.4 声を出したときの身体も観察してみる
最後に、
「こんにちは」
と普段どおりに声を出してみます。
そして、
声を出す直前に何をしていたか。
声を出した瞬間にどこが動いたか。
声を出した後にどこが固くなったか。
観察してみます。
ここでも、直す必要はありません。
「自分はこうしていたんだ」
と気づくだけです。
それだけでも、いつもの行動を少し違った角度から見ることができます。
第7章 レッスンを受けると、何が変わる?
では、こうしたレッスンを続けることで、何を学んでいくのでしょうか。
7.1 身体の感覚に気づきやすくなる
まず、自分の身体に対する注意が向きやすくなります。
「緊張している」という結果だけではなく、
「緊張する直前に何をしていた?」
と、その過程にも目を向けられるようになります。
例えば、
「人前に出ると緊張する」
だけだったものが、
「人前に出ると、まず息を止めて、肩を上げて、首を固めてから話そうとしている」
というところまで見えてくる。
これは大きな違いです。
7.2 「頑張る」以外の選択肢に気づく
何かがうまくいかないとき、私たちは「もっと頑張る」という方法を選びがちです。
もっと力を入れる。
もっと練習する。
もっと正しい姿勢にする。
もっと声を出す。
しかし、もし問題の一部が「頑張りすぎ」によって生まれているとしたら、さらに頑張ることだけが解決策ではありません。
「何かを追加する」のではなく、「余計なことをしていないかを見る」
という選択肢もあります。
7.3 声や動作を変える前に、自分の使い方を見られるようになる
これは、アレクサンダーテクニークを学ぶ面白さの一つです。
「正しい動作」を覚えて終わるのではなく、
「自分は今、どうやってこの動作をしているのか?」
という問いを持てるようになる。
それによって、声、演奏、仕事、日常動作など、さまざまな活動に学んだことを応用していくことができます。
第8章 アレクサンダーテクニークは、こんな人に向いています
もちろん、すべての人に同じように合う方法ではありません。
ただ、次のような方には、一度体験してみる価値があるかもしれません。
8.1 声を出すと身体が固まる人
話す、歌う、発表するなどの場面で、
「喉が固まる」
「首や肩に力が入る」
「身体全体が緊張する」
と感じる方。
8.2 人前に立つと緊張してしまう人
普段は普通に話せるのに、
人前に立つと声が出しにくい。
身体が固まる。
呼吸が浅くなる。
頭が真っ白になる。
そんな方も、自分が緊張するときの身体の使い方を観察するところから始められます。
8.3 歌や話し声をもっと自然にしたい人
「もっと声を出さなければ」と頑張ることで、かえって身体が固くなっていると感じる方。
発声技術を学ぶだけでなく、声を出している自分自身の身体の使い方にも目を向けたい方には、一つの選択肢になります。
8.4 身体の使い方を自分で学びたい人
「先生に治してもらいたい」というより、
「自分で自分の身体について分かるようになりたい」
という方。
こうした方には、アレクサンダーテクニークの考え方が特に面白く感じられるかもしれません。
第9章 まとめ|レッスンは「身体を変えてもらう時間」ではない
アレクサンダーテクニークのレッスンでは、
「正しい姿勢を作る」
「身体の悪いところを先生に直してもらう」
ということだけを目的にはしません。
立つ。
座る。
歩く。
話す。
声を出す。
そうした実際の活動を通して、
「自分は今、身体をどう使っているんだろう?」
と観察していきます。
教師による言葉や手によるガイダンスを通して、自分では気づきにくかった身体の使い方に気づくこともあります。
そして少しずつ、
「もっと頑張らなきゃ」
だけではない選択肢を学んでいきます。
アレクサンダーテクニークについては、慢性腰痛などでは比較的しっかりした研究がありますが、声や演奏などすべての目的について効果が確立しているわけではありません。音楽家を対象とした系統的レビューでも、いくつかの有望な結果が報告される一方、研究の数や質には限界があるとされています。
だからこそ、
「アレクサンダーテクニークなら必ず○○が治る」
と考えるのではなく、
「自分の身体の使い方を、自分自身で学んでみる」
というところから始めてみるのがよいのではないでしょうか。
もし、
「声を出すと喉に力が入る」
「人前に立つと身体が固まる」
「歌うときに頑張りすぎてしまう」
「姿勢を良くしようとすると、かえって身体が固くなる」
ということに心当たりがあるなら、まずは今日の記事で紹介したように、自分が何をしているのかを観察するところから始めてみてください。
そして、もっと自分の身体の使い方を詳しく学んでみたいと思ったら、レッスンという方法もあります。
免責事項
※本記事は、アレクサンダーテクニークや身体の使い方についての一般的な情報を提供することを目的としており、病気や身体症状の診断・治療を目的としたものではありません。
声のかすれ、喉の痛み、発声時の痛み、声が出しにくい状態などが続く場合には、自己判断でアレクサンダーテクニークのみで対処せず、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。
また、アレクサンダーテクニークによる効果には個人差があり、特定の症状の改善や治癒を保証するものではありません。
参考文献
- Little P, et al. Randomised controlled trial of Alexander technique lessons, exercise, and massage (ATEAM) for chronic and recurrent back pain. BMJ. 2008;337:a884.
- Woodman JP, Moore NR. Evidence for the effectiveness of Alexander Technique lessons in medical and health-related conditions: a systematic review. International Journal of Clinical Practice. 2012;66(1):98–112.
- Klein SD, Bayard C, Wolf U. The Alexander Technique and musicians: a systematic review of controlled trials. BMC Complementary and Alternative Medicine. 2014;14:414.
